日本における抗菌薬の使用量

掲載日:2018.06.04

国家レベルの抗菌薬の使用量と薬剤耐性菌の出現率には正の相関関係を示すことが明らかにされています。したがって、有効な耐性菌対策を策定するためには、まずヒトや動物における抗菌薬の使用量を正確に把握することが重要となります。食用動物における抗菌薬の使用量は、1999年から開始された家畜衛生分野における薬剤耐性モニタリング体制、いわゆるJVARMのモニタリング対象として調査され公表されています。基本的に薬機法に則って企業から提出される製造あるいは輸入される動物用医薬品としての抗菌薬について純末換算量として集計するものです。また、それらの抗菌薬はどのような動物種に使用されているのかも、推定販売量として算出しています。本来ならば獣医療現場での実際の使用量を示すことができれば良いのですが、残念ながら現在それを集計するシステムがないためにこのような方法をとっています。この方法の欠点としては、その年の製造あるいは輸入量であり正確な使用量でないこと、通常、有効期間は1年以上あることから過剰な数量となっている可能性があること、純末換算量であることから動物の飼育実態が異なる国ごとの比較に適さないこと、あるいは国内でもヒトの使用量と単位が異なり比較にならないことなどが上げられます。しかし、それらの欠点を承知の上で耐性菌対策の重要な情報として毎年集計し公表しています。一方、医療で使用されるヒトの抗菌薬に関しては、国が実施する販売高に関する調査があるだけで、使用量に関する情報は研究レベルで実施されているだけです。国が実施する販売高では薬価に影響され成分ごとの使用量には程遠いものであり、動物とも他国とも比較には適さないものです。今後は使用実態が明らかに成るような調査方法を確立するとともに、動物とも比較可能な単位を設定する必要があると考えます。

このような状況があるものの、2016年に公表された薬剤耐性(AMR)対策アクションプランから、さまざまな抗菌薬の使用量に関する情報が明らかにされてきました。まず、日本全体での抗菌薬の販売量を見てみましょう(図参照)。総計1,747トンで、動物用医薬品および飼料添加物として1,021トン(58%)が動物に販売され、ヒトの約2倍となります。また、抗菌性の農薬として148トン(9%)が販売されています。この数値をもって動物には過剰に抗菌薬が使われているとの結論にならないのですが、EU諸国と食肉1kgあたりの抗菌薬の使用量で比較した論文によると、日本はオランダとフランスに次ぐ使用量の多い国に位置づけられます。したがって、できるだけ不必要な抗菌薬の使用を止める努力が求められると思います。このような耐性菌対策に係る関係者の意識の反映と思いますが、2001年に約1000トンであった動物用医薬品としての抗菌薬の販売量が、2011年には約740トンと約25%削減されています。今後、さらに削減されることが望まれるところです。

次に動物用医薬品としての抗菌薬の系統別販売量を見てみると、350トン前後にテトラサイクリン系となり、断然として1位です。次いでサルファ剤の約120トン、マクロライド系、ペニシリン系の100トンが続きます(図参照)。医療で重要視されるセファロスポリン系やフルオロキノロン系は10トン以下で限定的な使用となっています。その使用する動物種を見てみると、豚が圧倒的に多く約500トンで、次いで水産用(海水)の約100トンが続いています。したがって、わが国の動物に使用される抗菌薬の半分は豚に主にテトラサイクリン系が使われていることになります。これまでのJVARMの調査から豚から分離される病原細菌や指標細菌のいずれもがテトラサイクリン系に高い耐性率を示しており、使用の必要性を再検討する必要があります。AMR対策アクションプランでも、動物由来大腸菌のテトラサイクリン耐性率を現行の45%から2020年まで33%に削減することを成果指標としており、テトラサイクリンン系の使用を制限する方向であることは間違えありません。安価なテトラサイクリン系を感染症の予防目的に長期間使用することは戒める必要があります。

一方、医療で使用される抗菌薬は、経口薬で見るとマクロライド系、セファロスポリン系が多く、フルオロキノロン系が続いています(図参照)。つまり、動物における使用実態とかけ離れた成分がヒトに使用されていることになり、耐性菌の出現状況も異なると考えます。さらに抗菌性の農薬を見てみれば、年間150トンが国内で出荷されており、成分としてヒトや動物に使用されるストレプトマイシンやオキシテトラサイクリン、オキソリン酸が含まれています。このような成分が環境に直接的に放出されることにより、耐性菌や耐性遺伝子の選択圧になることを危惧します。事実、環境中の低濃度の抗菌薬が選択圧になりうるとの論文も報告されています。

以上、日本における抗菌薬の使用状況をまとめてみると以下のようになります。いずれにしても、限りある抗菌薬を今後も使用するため、抗菌薬の効果を維持し、耐性菌の出現を極力抑えるような適正使用を励行する必要があります。

(1)動物にはヒトで使用する約2倍量の抗菌薬が使用される。
(2)動物ではテトラサイクリン系が主に使用され、主に豚で使用される。
(3)ヒトではマクロライド系、セファロスポリン系、フルオロキノロン系が主に使われる。
(4)ヒトや動物に使用される同じ成分の農薬が環境に曝露されている。

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