薬剤耐性対策アクションプランについて

掲載日:2017.06.02

医療における耐性菌の地球規模での蔓延が深刻な事態となっています。2013年にアメリカ疾病予防管理センターは,年間200万人以上が耐性菌感染症に罹患し,23,000人以上が死亡すると推定しています。また,英国政府はこのまま何ら耐性菌対策を取らなければ,2050年までに1,000万人が耐性菌感染症で死亡し,死亡者の多くはアジアとアフリカであることを警告しました。このように現在,薬剤耐性菌は人類に対する最も大きな脅威となっているのです。

このような状況を受け世界保健機関(WHO)は,2015年5月に開催された総会においてWHO Global Action Plan on Antimicrobial resistance(WHO国際行動計画)を採択しました。戦略的目標としては,①普及啓発・教育,②サーベイランス・モニタリング,③感染予防・管理,④抗微生物薬適正使用,⑤研究開発・創薬の各項目が掲げられています。この耐性菌対策の基本的な考えを人と動物と環境の関係における総合的な健全性の概念であるOne Health approachとしました。その直後である6月にドイツで開催されたG7サミットでもWHOの活動が支持されたことから世界的な動きへと進展しました。またG7サミットの首脳宣言の附属書にも「薬剤耐性(AMR)と闘う共同の努力」が記載されています。首脳宣言の中でAMRに関する記載は異例のことと思われ,いまやAMRは世界経済や国際紛争に匹敵する課題ということでしょう。この付属書には,「リスク分析がない場合は成長促進のための抗生物質の使用を段階的に廃止する」など突っ込んだ内容も含まれています。2016年5月に開催されたG7伊勢志摩サミットでも耐性菌対策は重要な課題とされ,国際保健のためのG7伊勢志摩ビジョンの中でAMR対策の強化が示されています。さらに耐性菌問題はG7諸国のみの問題でないことから,2016年9月の第71回国連総会において薬剤耐性に関するHigh-level Meetingが開催され,One Healthによる耐性菌対策が地球規模での課題になったものと思われます。したがって,One Healthの一角を担う動物領域も無関心ではいられない状況となっているのです。

WHO国際行動計画の採択に伴って,2年以内に加盟各国で行動計画を策定することが義務付けられたことから,2016年4月に内閣府から「薬剤耐性対策アクション・プラン(2016-2020)」(行動計画)が発出されました。内容はWHO国際行動計画に記載された5項目に関する具体的な内容が記載されるとともに,わが国独自に国際協力が追加されました。今後AMR対策に対して日本はアジアのリーダーシップを取るとの強い意志を示したことになります。また,通常の行動計画は努力目標を示す傾向が強いものの,今回は数値による成果指標についても記載されており,毎年の評価とともに2020年までの達成が国際約束することになりました。具体的に動物に対しては,最も使用量が多く耐性菌も多い大腸菌のテトラサイクリン耐性率を現在の45%から33%以下に低下させることと,医療に対する影響が大きいと考える大腸菌の第3世代セファロスポリンおよびフルオロキノロン耐性率をG7各国の数値と同程度とすることです(表1)。ご承知のようにテトラサイクリンの単剤耐性菌は稀であり,多くは多剤耐性型の一角を占めています。したがって,単純にテトラサイクリンの使用量を下げたとしても簡単には目標値を達成できず,今後,多くの抗菌薬の使用量の削減や使用法の制限など規制強化は免れないものと思われます。

一方,今回の行動計画は医薬品業界にとってマイナス面ばかりでなく,インセンティブを与える内容でもあります。つまり,G7サミットの附属書では耐性菌を低減化させるために代替治療やワクチンの開発を促進することが述べられていることや,行動計画の⑤研究開発・創薬の推進では,感染症を防ぐ新たな予防法,診断法および治療法開発に資する研究を推進することが明記されているからです。これを追い風として新たな動物用医薬品の開発を推進して欲しいと願っています。

文責:田村 豊