One Health(一つの健康)の意味と重要性

掲載日:2017.06.02

医療における薬剤耐性菌の蔓延は地球規模で起こっており,各国政府はその対応に追われています。このような状況を憂慮した世界保健機関(WHO)は,2015年5月に薬剤耐性グローバル・アクション・プラン(世界行動計画)を採択し,その基本的な考えをOne Healthとしました。さらにWHOに引き続いてわが国も2016年4月にOne Healthに基づく薬剤耐性アクション・プラン(行動計画)を公表しました。ではここでいうOne Healthとは一体何なのでしょうか? そこで今回はOne Healthについて解説したいと思います。

One Healthは,ヒトと動物そして環境の関係における総合的な健全性を表す考え方をいいます。この考えが急速に広がった理由は,環境の変化やグローバリゼーションを背景とした人獣共通感染症の流行が考えられます。新聞やテレビで盛んに報道されたアフリカを中心に流行したエボラ出血熱や中東呼吸器症候群(MERS)などは,開発や人口増加に伴う野生動物とヒトとの接触機会の拡大や発達した交通網による感染者の移動により急速に拡大しました。一般に人獣共通感染症の多くは動物に由来することが知られていますので,対策として従来の医療のように感染した患者を治療するだけでは不十分なのです。このような状況下にあってヒトと動物と環境の関係改善を図り,それぞれの健康を維持・増進させなければ,今後も大流行は防げないとの思いでOne Healthの重要性が共通認識されるようになりました。具体的な対応としては,ヒトと動物と環境との関係を明らかにした上で,感染経路を遮断することが考えられます。

そもそもOne Healthは,2004年9月にアメリカのニューヨーク市マンハッタン地区で開催されたヒトと動物と野生動物の感染症の現状と感染拡大の可能性に関する国際会議に由来しています。地名に由来してマンハッタン原則とも言われます。最近,薬剤耐性菌対策に用いられた理由は,薬剤耐性菌がヒトと動物と環境で循環していることが明らかにされてきたことから,それぞれの独立した対策では不十分であり,One Healthの考え方で効果的な対策を実践しようとしたものです。医師や獣医師が使用する感染症治療薬である抗菌薬は,腸管などに生息するさまざまな細菌集団から耐性菌を選択するとともに,その伝播を促進する効果があり慎重な使用が求められています。現在,日本医師会と日本獣医師会はOne Healthに関して協定書を交わしていることから,耐性菌以外のさまざまな分野でも医師と獣医師の緊密な連携が今後見られるものと思います。最近開催される医学系や獣医学系の学会では,One Healthに関するシンポジウムやセミナーが多く開催されていることから,新聞やテレビで報道される際には注目していただければ幸いです。

文責:田村 豊