イヌを飼うことに伴う責務とは?

掲載日:2018.05.14

ペットショップで展示されているイヌの何かを訴えているような目や、可愛らしい仕草を見ると、誰しもが自宅で飼育したい衝動に駆られます。また、現在の複雑化したストレスの多い社会を生き抜くには、飼い主に掛け値なしに従順なイヌを癒しの対象と考えることも無理ならぬことに思います。しかし、一旦イヌを飼育するとなると、飼い主にはさまざまな法的な責務が発生することも忘れてはなりません。終生飼育などの動物愛護法上の責務は他に譲るとして、ここでは狂犬病ワクチンに関する事項に限定して述べたいと思います。

狂犬病は今なお世界各国で発生する重要な人獣共通感染症です(図参考)。一旦ヒトを含めた哺乳類が発症するとほとんどが死の転帰をとることが知られており、人類にとって最も危険な感染症ということができます。ヒトは狂犬病に感染したイヌに咬まれることにより感染し、1~3ヶ月間の潜伏期を経て発症します。高熱や幻覚などの悲劇的な急性神経症状を示し、昏睡に陥り呼吸不全で死の転帰をとります。狂犬病予防法が制定される1950年以前は、日本国内で多くのイヌが狂犬病と診断され、ヒトも感染して亡くなっていました。狂犬病予防法の施行によりイヌの登録、予防注射、野犬の拘留が徹底された結果、わずか7年間で狂犬病を撲滅するに至りました。しかし、狂犬病を撲滅した国はごく僅かであり、海外では依然として発生しており、万一の侵入に備えた対策が極めて重要です。台湾は日本と同じく狂犬病のない国として知られていましたが、2012年に野生動物であるイタチアナグマ3頭の発生をきっかけとして、野生動物に拡大し、ついに感染した野生動物に咬まれたイヌが発症するという憂慮すべき事態になりました。したがって、狂犬病清浄国である日本に侵入するという脅威は依然として継続しているのです。

イヌの狂犬病を予防するためにワクチンが有効であることは、日本が狂犬病の無い国に辿った歴史を見ても明らかです。極論を言えばイヌのワクチン接種を完全に実施すれば、国内でヒトが感染するリスクは極めて低いと言っても良いほどです。ところが、日本には狂犬病がないとか、ワクチン接種に伴う副作用が怖いとか、室内で飼育するとか、狂犬病の侵入リスクは低いなどという理由でワクチン接種をしない飼い主が居ることを心配しています。私たちが北海道で飼育されているイヌについて狂犬病ワクチンの接種率を調査したところ、盲導犬などのガイド犬では100%ワクチンが接種されていたものの、大型犬で71%。小型犬では57%しかワクチンを接種していないことが分かりました(図参照)。

狂犬病予防法の第5条では、「犬の所有者(所有者以外の者が管理する場合には、その者。)は、その犬について、厚生労働省令の定めるところにより、狂犬病の予防注射を毎年一回受けさせなければならない。」と規定されています。また、第5条に違反したものは、第27条で「20万円以下の罰金に処する。」と罰則規定が設定されています。これまでは、日本の実態に鑑みてだと思いますが、この条文を発動することはありませんでした。ところが、2月19日付けの朝日新聞に、「狂犬病予防接種受けさせなかった疑いで逮捕 60匹保護」というニュースが流されました。この事例は衛生的にも動物愛護としても問題のある大量飼育のケースではありましたが、60匹でだめで1匹が良いと言う理屈にはならないように思います。以上のように現在法的に規定された狂犬病ワクチンの接種は、イヌを飼うことの責務として履行をお願いしたいと思います。なお、狂犬病ワクチン接種の必要性に関しては、あくまでウイルス学や感染症学、さらには疫学的な十分なる科学的検討を経た上で法律にも反映させるべきものであり、個人的な判断によるものでないことを指摘しておきたいと思います。

厚生労働省ホームページから