マクロライド系抗生物質の多機能性

掲載日:2018.04.23

抗生物質は「微生物が産生し、ほかの微生物の発育を阻害する物質」と定義されています。しかし、抗生物質の中には、がん細胞の細胞膜を破壊したり、DNAまたはRNAの複製や合成を阻害したりする抗がん性抗生物質も存在します。さらに一つの抗生物質が抗微生物作用以外にもいろいろな作用を示すものも知られています。そこで今回はマクロライド系抗生物質(マクロライド)の持つ多機能性について紹介したいと思います。

マクロライドは、アミンまたは中性糖が結合したラクトン環から構成されており、ラクトン環の構造により14員環、15員環および16員環に区別されます。動物用マクロライドでは14員環としてエリスロマイシン、15員環としてツラスロマイシン、ガミスロマイシン、16員環としてスピラマイシン、タイロシン、チルミコシン、ミロサマイシンが承認されており、肺への移行性が良いことから主に呼吸器感染症の治療薬として利用されています。マクロライドはブドウ球菌などのグラム陽性菌やマイコプラズマ、クラミジアなどの他、ヘモフィルスやカンピロバクターなどの一部のグラム陰性菌に対して抗菌力を示します。その機序は、細菌のリボソームの50Sサブユニットに選択的に結合し、ペプチド転移反応を阻害することにより、タンパク質合成を阻害することによります。

一方、エリスロマイシンは抗菌作用以外にも消化管運動機能亢進作用を示すことが知られています。これは消化管蠕動ホルモンであるモチリンのアゴニストとして作用することによります。またエリスロマイシンは慢性のびまん性汎細気管支炎に有効であることが知られ、慢性気道炎症を取り巻く免疫炎症細胞を介する抗炎症作用を誘導することが知られています。これは好中球の血管内皮への接着を抑制したりIL-8の遊離を阻害することによるとされています。さらに緑膿菌が感染した場合は、このコラムでも紹介したQuoram-sensing機構により、菌体毒素の産生を抑制したり、バイオフイルムの産生を抑制したり、菌の細胞への付着を抑制するなどの作用も知られています。

またマクロライドの中には、2015年のノーベル医学生理学賞を受賞した大村智先生が発見したイベルメクチンのように、抗菌作用はないものの寄生虫(線虫)や節足動物に対しても死滅効果を示すものもあります。さらに筑波山の土から分離した放線菌から発見したタクロリムス(FK506)は、23員環マクロライドで強力な免疫抑制効果を示し、臓器移植時の拒絶反応を抑えたり、アトピー性皮膚炎や関節リューマチの治療に応用されています。このようにマクロライドは抗菌作用以外に多彩な機能を有しており、他の抗生物質と異なり特徴ある存在感を示しています。

抗生物質は産生菌の生存を維持するために、生息域に共存する自分以外の微生物を殺滅させ栄養成分を有利に摂取する目的で産生すると考えられてきました。いわば自己生存本能ともいうべき現象です。そうであれば抗微生物作用に特化してもよさそうですが、それ以外にも微生物の病原因子を抑制したり、さらには感染する宿主の免疫を抑制するなど多彩な機能を示し極めて興味ある薬物と言えそうです。抗がん作用など抗生物質の持つ全ての機能の生物学的意義を説明することは困難ですが、少なくとも新薬開発のシーズとして無くてはならない存在であることも確かなようです。新薬開発にあたっては、この古代からの生き物である細菌を侮ることなく、その声なき声を聴く努力が今後も求められるのです。

 

 

木島まゆみ:マクロライド系およびリンコマイシン系抗生物質,日本獣医師会雑誌 79:772-776,2017.

 

砂塚敏明:マクロライド系薬の新作用と創薬 日本化学療法学会雑誌 52:367-370 , 2004.