セフチオフルの適応外使用から得た教訓

掲載日:2018.04.09

抗菌薬は要指示医薬品であるため、獣医師による投薬を基本としています。また食用動物に対しての使用に当たっては、使用規制省令に準拠した用法及び用量、使用禁止期間を守ることが求められます。ただし、獣医師がその診療に係る対象動物の疾病の治療又は予防のためやむを得ないと判断した場合は、自ら決定した用法及び用量での投薬や人体用医薬品の使用が法的に認められています。したがって、獣医師は自身の経験や知識をもとに比較的自由に抗菌薬を使用することが出来るのです。ただし、当然のこととしてその責任も重く、適応外使用によって生じる安全性や残留に関する責務は獣医師が一切を負うことになります。

動物用第三世代セファロスポリン系抗生物質であるセフチオフルを主成分とする製剤が承認されており、ウシやブタの呼吸器感染症の治療に使用されています。セフチオフルは安全性と有効性に優れており、長期間にわたり畜産領域で重要な抗菌薬として位置づけられています。このセフチオフルの適応外使用により、意図せぬ耐性菌の増加を招いた事例を紹介し、適応外使用に潜む問題点を考えてみたいと思います。

鶏は様々な感染症に罹る可能性があり、ワクチンプログラムが確立しています。しかし、多頭羽飼育が基本であることからワクチンの接種作業が非常に大きな労働となります。鶏の効率的なワクチン接種を可能にしたものが自動卵内ワクチン接種システムです。卵内の鶏胎児にも成鶏に劣らぬ免疫応答力があるとの研究成果を基礎に、自動で卵内の胎児にワクチンを接種するもので、大きな省力化に貢献しました。しかし、卵表面は糞便由来細菌などで汚染しており、ワクチン接種時にしばしば胎児の細菌感染を起こすことが問題視されていました。本来は卵表面を消毒すれば良いのですが、ワクチン液の中にセフチオフルを混入し、細菌感染症を予防していたのです。つまり胎児のひよこの前段階で高濃度のセフチオフルの接種を受けていたことになります。ヒトでは到底想像もできないような話しです。このことから健康な肉用鶏の糞便から分離された大腸菌の第三世代セファロスポリン系薬に対する耐性率は急激に上昇し、20%近くにまで達しています。この時、産卵鶏やウシやブタなどでは耐性率が5%以下であるのと対照的です。その後、業界で自主的にセフチオフルの適応外使用を止めたところ、急激に耐性率は低下し、2013年には4.6%になっています。最近では2.7%まで低下していることが報告されています。

この事例は私たちに抗菌薬の慎重使用の重要性を教えてくれているように感じます。利便性から抗菌薬を適応外使用することにより、思いもしない急激な耐性菌の上昇を招いたことです。獣医師は抗菌薬の適応外使用が認められていますが、不適切な抗菌薬の使用が生み出す負の効果も考えて対処することが重要です。また、今回の事例は家畜衛生分野での薬剤耐性モニタリング体制(JVARM)で毎年、同じサンプリング方法で採材し、同じ方法で試験をするという制度の中で異常値が発見されたもので、図らずもJVARMの有用性を示す結果となりました。実は肉用鶏の耐性率が急増する前の段階で、JVARMの担当職員がセフチオフルに耐性を示し医療で問題視されていた基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌を検出しておりました。当時は鶏用のセファロスポリン系薬が承認されておらず、また本剤は高価でしたので経済性から鶏には使用しないだろうと考え、ESBL産生大腸菌の出現要因は分かりませんでした。このことは耐性率の異常値を検出する前から、JVARMで耐性菌を把握していたことになるわけです。

以上、今回は動物用抗菌剤の適応外使用から得た二つの教訓について書きました。繰り返しになりますが、今回、抗菌薬の適応外使用の事例から抗菌薬の慎重使用が如何に重要であるかを示すとともに、薬剤耐性モニタリング制度の存在意義を示す結果になりました。