逆転の発想

掲載日:2018.03.26

キノロン系抗菌薬(FQ薬)は抗菌スペクトルが広く、殺菌的に作用する切れ味の良い合成抗菌薬です。したがって、医療や獣医療では最も重要視されています。食品安全委員会では、食品を介してヒトの健康に影響を及ぼす抗菌薬の重要度ランキングにおいて「きわめて高度に重要」と最高位にランクしています。また、獣医療では第二次選択薬として、第一次選択薬が無効の場合にのみ使用することを求めています。しかし最近、医師や獣医師による不適正な使用を背景として、さまざまな細菌がFQ薬に耐性を示すようになっています。われわれ獣医師にとってFQ薬は、「drug of last resort最終治療薬」であることから、慎重使用を徹底したいものです。

ところで細菌がFQ薬に耐性になるのは、主にキノロン耐性決定領域(QRDR)というFQ薬の結合部位の突然変異により、FQ薬の親和性が低下することによります。このようなFQ耐性菌による感染症に対しては、さらに強力な抗菌薬が必要となります。しかし新たな抗菌薬を使用しても細菌は直に耐性となり、さらに新しい強力な抗菌薬を求めると言うイタチゴッコになるのです。

最近、この新規抗菌薬と細菌のイタチゴッコが解消される可能性がある抗生物質が発見されましたので紹介したいと思います。2012年に順天堂大学のHiramatsuらは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のQRDRの突然変異部位に強い親和性があり、FQ薬に感受性である野生株には親和性の低いナイボマイシン(nybomycin)を報告しました。また、驚くことにナイボマイシン耐性のMRSAはFQ薬に対する感受性を再獲得(QRDRが未変異)しておりました。そこで復帰抗生物質(reverse antibiotics)という新しい抗菌薬の概念を発表しました。さらに興味あることにナイボマイシンはFQ薬が開発される以前に発見されていたことです。このように耐性菌を標的として新規の抗生物質をスクリーニングするという逆転の発想が、現在のヒトの健康に対して最も脅威となっている耐性菌を制御できる可能性を示していると思います。なお、自然界に生息する細菌の中に、QRDRに変異があるものが多数見つかったとの話もあることから、そもそもQRDRの変異体が野生株である可能性もあるようです。いずれにしても耐性菌時代を迎えて企業には新たな発想による新規の抗菌薬の開発を期待したいものです。

Hiramatsu K, et al: Curing bacteria of antibiotics resistance: reverse antibiotics, a novel class of antibiotics in nature, Int J Antimicrobial Agents 39:478-485, 2012