血液製剤の潜在的な危険性

掲載日:2018.03.19

動物に対する輸血は、かつて承認されたイヌに対する輸血用血液製剤により実施されておりましたが、製造販売企業の廃業により現在は製剤そのものがありません。しかし、手術時の大量出血や交通事故などで動物が緊急に輸血を必要とされる場合はままあると思われます。そこで伴侶動物医療では、動物病院内に供血犬を飼育し必要な時に採血して輸血している事例が認められています。今般、医療で使用される輸血用血液製剤が原因でE型肝炎を発症した死亡事例がニュースで報道(2月21日産経新聞)されましたことから、血液製剤が持つ潜在的な危険性について考えてみたいと思います。

今回の事例は、多発性骨髄腫の女性が照射赤血球液-LRを投与後に肝機能が異常となり、最終的に劇症肝炎で死亡したものです。患者は投与後85日目の検査でE型肝炎ウイルス(HEV)の遺伝子検査が陽性で抗体も陽性となっていました。そこで献血者の保管検体を調べたところHEVの遺伝子が検出され、患者から検出されたHEVと同じ遺伝子型でその塩基配列も一致しました。患者は抗がん剤の投与を受けており、劇症肝炎の原因を特定することは難しいものの、HEV感染が要因となった可能性はあると考えられます。

ここで今回の死亡事例に関連したE型肝炎について簡単に紹介したいと思います。読者の皆様も肝炎ウイルスにいろいろな種類があり、A型、B型、C型などは良く聞かれていることと思います。この内、経口感染する肝炎ウイルスはA型とE型になります。E型肝炎はこれまでアジアにおける流行性肝炎の主なものでしたが、近年、渡航歴のない患者の発生が見られるようになってきました。主な感染経路はHEVに汚染した食材の摂食にあるといわれています。特に豚や鹿や猪がウイルスを保有することが知られており、猪の肝臓や鹿肉の生食を原因とする感染事例が知られています。豚の肉や肝臓は2015年の6月に食品衛生法により生食が禁止されており、問題は野生動物の食肉や内臓の生食や加熱不十分な調理となります。ヒトはHEVに感染しても必ずしも発症することはないようです。今回の献血者も肝炎を発症していませんが、献血の約2か月前に生の鹿肉を食べたといわれております。

このように血液製剤には供血するヒトや動物に感染した微生物が、何ら症状を示さないヒトや動物から混入する危険性をはらんでいるのです。当然のことながら供血された血液について微生物学検査は実施していますが、感染する全ての微生物に対する検査は経済的にも技術的にも不可能な状態です。したがって、滅菌工程のない血液製剤には潜在的な危険性がはらんでいるのです。血液製剤の投与に当たっては、ヒトも動物もリスクとベネフィットのバランスを考慮する必要があると考えます。なお、研究段階であるもの滅菌工程のある人工血液の開発が進められており、将来的に現行の血液製剤に代わることに期待したいと思います。

輸血による移植片対宿主病(輸血に伴う合併症でいわゆる拒絶反応といわれるもの)を予防するために低量の放射線を照射した血液のこと。

 

今回の輸血用血液製剤でHEVに感染した事例に関する報告は、以下の薬事食品衛生審議会の第5回血液事業部会運営委員会資料で見ることができます。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000192774.pdf