匙加減と獣医師

掲載日:2018.03.12

匙加減(さじかげん)とは、医師が治療に際して薬を調合する時の分量の加減、つまり医師の力量の程度を表す言葉として使用されています。昔の医師は患者の症状や病歴、さらに家族の既往歴などを総合的に判断して治療薬の分量と投与期間を決め投薬していたのです。現代では市販された医薬品を使用するため、匙加減で投薬することは稀であるものの、時に承認された用法用量の範囲を越えて使うこともあるものと推察します。特に特別な病気に対して専門性の高い医師は、その力量に応じて治療上必要となれば医薬品を適応外使用することもままあるものと思います。

一方、獣医師を考えてみれば少し状況は異なります。食用動物(家畜)を対象とする獣医師は、最終的に生産物は食用ですのでヒトへの影響を常に考慮して治療にあたる必要があります。特に考慮しなければならないのは、食肉などの生産物への医薬品の残留です。薬機法の第84条の4に生産物で人の健康を損なうおそれのあるものについて、獣医師が遵守すべき基準を定めることができるとなっています。つまり獣医師が使用する動物用医薬品については、対象動物、使用時期、使用禁止期間が決められているのです。具体的には動物用医薬品が承認されるのと同時に、使用規制省令に収載され、使用対象動物、用法及び用量、使用禁止期間が定められます。ここで言う使用禁止期間とは、医薬品の残留の可能性のある畜水産物が食卓へ運ばれることを防ぐために定められた期間を言います。これに違反した場合は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、またはこれを併科するとなっており罰則が定められています。したがって、獣医師は家畜の治療に当たっては、使用規制省令の遵守が求められるのです。獣医師の指示によって医薬品を使用する農家も罰則の対象になります。

ただ、これでは獣医師の力量を発揮することが難しいことから、獣医師が治療や予防のためにやむを得ないと判断された場合は、使用基準に準拠しない使用も可能です(特例使用と呼ばれます)。したがって、獣医師はヒト用の医薬品も使用することが可能なのです。この場合、獣医師は出荷制限期間指示書に出荷制限期間を明記し、農家に渡すことが求められます。特例使用の場合、科学的な根拠となるデータはありませんので、あくまで獣医師の裁量で決められた用法用量なので残留が確認されれば獣医師が罰則の対象になります。以上のように獣医師による匙加減は医師とは別の重い責任が求められるのです。

 

 

*薬機法:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律

使用規制省令:動物用医薬品及び医薬品の使用の規制に関する省令