家畜関連型MRSAとは?

掲載日:2018.02.19

最近、世界的にヒトの健康に影響すると考えられる家畜由来耐性菌で注目されているのは、これまで紹介したプラスミド性コリスチン耐性遺伝子mcrを保有する大腸菌と、家畜関連型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Livestock-associated methicillin-resistant Staphylococcus aureus ; LA-MRSA)です。MRSA はヒトばかりでなく犬、猫、牛、豚および鳥類などさまざまな動物からも分離されてきましたが、詳しい解析は実施されておらず由来も明らかでありませんでした。2003年にオランダの養豚従業者の家族である4 歳の少女から従来とは異なるMRSAが分離され注目されました。このMRSAは家畜、特に豚から分離され、畜産従事者も高率に保菌することが分かりました。LA-MRSA の明確な定義はなされていませんが、家畜に関連し、これまで医学サイドで知られていた院内感染型MRSA(Hospital (Healthcare)-acquired MRSA;HA-MRSA)および市中感染型MRSA (Community-acquired MRSA; CA-MRSA)の遺伝子型と区別される MRSA とされています。LA-MRSAの主な遺伝子型は、MLST(multi locus sequence typing)が ST398 であり、黄色ブドウ球菌の病原因子である Protein A 遺伝子(spa)の多変領域の塩基配列 を基にしたspa 型は t011あるいは t034 で、MRSA の分子疫学上の重要なマーカーである SCCmec 型は IVa 型あるいは V 型とされています(図参照)。またST398以外にもST9や同一クローン集団と考えられるClonal complex (CC) 398やCC97やCC9などが報告されています。分離率は非常に高く40%を越える豚の鼻腔から分離されたとの欧米からの報告も認められます。LA-MRSAが医療関係者の注目を集めたのは、オランダやドイツの病院で分離されたMRSAの多くがLA-MRSAであり、家畜から多く分離される地域の病院のMRSA分離率が高いといった報告によります。LA-MRSAの多くは豚から分離されていますが、牛やバルク乳からの報告もあります。ただヒトの健康への影響に関しては不明です。

では日本での分離状況はどうなっているのでしょうか?私たちは欧米でのLA-MRSAの蔓延状況を憂慮し、2010年に東日本の23農場の豚の鼻腔での調査成績を報告しました。その結果、0.9%の豚鼻腔からST221/t-002という欧米で流行するクローンとは別のMRSAが分離されました。次いで2015年に関東圏のと畜場で21農場から出荷された豚の鼻腔スワブ100検体についての調査成績を報告しました。その結果、3農場の検体(8%)から5株のST97/spa t1236/SCCmec Vと3株の ST5/spa t002/atypical SCCmec typeが分離されました。この内、ST5は人からの分離報告の多いMLSTです。したがって、現時点で日本の豚からST398が分離されたとの論文報告はありませんが、欧米から生きた豚が輸入されることや、メチシリン感受性のST398やST9の黄色ブドウ球菌が豚の鼻腔から分離されていることを考えれば、欧米を席巻するLA-MRSAの国内の侵入は時間の問題と考えられます。したがって、One Healthに基づく薬剤耐性モニタリングにより、その動向を監視する必要があります。また動向調査で上昇傾向が認められれば、ヒトへの伝播を阻止するリスク管理対策が求められます。このような状況を考慮し、農林水産省では家畜衛生分野における薬剤耐性モニタリング制度(JVARM)ではLA-MRSAを対象菌種としたようで、全国的なLA-MRSAの浸潤状況が明らかにされる筈です。ヒトからの分離株での調査でネックになるのは、分離したMRSAについて分子生物学的検査をしなければならないことです。今のところ遺伝子型以外に鑑別することは困難であり、早急なLA-MRSAの臨床検査で実施可能な鑑別法を開発する必要があります。

Baba K.、 et al.: Isolation of metichillin-resistant Staphlococcus aureus (MRSA) from swine in Japan、 Int J Antimicrob Agents、 36(4): 352-354、 2010.

Sato T.、 et al: Characterisation of metichillin-resistant Staphylococcus aureus ST97 and ST5 isolated from pigs in Japan、 J Global Antimicrob Resis、 3(4): 283-285、 2015.

Asai T.、 et al.: Presence of Staphylococcus aureus ST398 and ST9 in swine in Japan. Jpn J Infect Dis、 65(6): 551-552,  2012.