mcr-1保有コリスチン耐性大腸菌の人からの分離報告

掲載日:2018.01.22

緑膿菌やアシネトバクター属菌による多剤耐性グラム陰性菌感染症が世界各地で急増しています。幸いに日本における発生はそれほど多くないとされています。また医療において極めて重要なカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症も時々報道等で目にする機会があります。しかし、物や人の国際的な交流が盛んであることや耐性菌の性質を考えると、何時日本で大流行するかは誰もが予想できない状態にあるのです。これらの多剤耐性菌に対して有効な抗菌薬がコリスチンであり、既存の抗菌薬では効果が期待できない場合の最終救済薬と位置付けられています。

コリスチンの医療での使用は厳格な管理下に置かれており限定的に使用されているのにすぎません。しかし、食用動物におけるコリスチンは、治療用としての医薬品および成長促進用の飼料添加物として年間50トン弱が販売されています。したがって、世界的に食用動物において選択されたコリスチン耐性菌が食肉を介して人に伝播することが懸念されているのです。幸い日本では食用動物において半世紀にわたりコリスチンが使用されているにも係わらず耐性菌の出現率が低く抑えられてきました。

ところが2015年に中国において細菌間で伝達が可能なプラスミド性コリスチン耐性遺伝子mcr-1が報告され、瞬く間に世界各地の動物や食肉、さらには人からの分離報告がなされ医療における影響が懸念される事態に陥っています。日本では健康な牛の糞便から分離された大腸菌の0.16%、豚の0.97%、鶏の0.69%からmcr-1が検出されています。また病気の豚から分離された大腸菌の13%から検出されたことも報告されています。最近、国産の鶏肉から分離された70株の基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌の1株にmcr-1が検出されたことが報告されました。そこで人由来大腸菌からのmcr-1の検出に関心が寄せられてきました。今般わが国で2例の人由来大腸菌からの報告例が公表されましたので紹介したいと思います。

まず1例目の報告ですが、2017年に急性白血病に罹患した患者の糞便からmcr-1保有大腸菌が分離されました。この方は経口ポリミキシンBの投与歴がありました。また台湾への旅行歴もあり、家畜と近距離で生活していたようです。分離株は多剤耐性でありコリスチンのMICも16μg/mLと高いもので、著者は動物からの伝播の可能性を指摘しています。さらに2例目の報告ですが、2016年にカルバペネムの治療を受けたことのある幼児の糞便からmcr-1のアミノ酸が一つ置換したmcr-1.5を保有する大腸菌が分離されたものです。分離株はESBL遺伝子であるblaCTX-M-8を保有し、コリスチンのMICは2μg/mLでした。血清型はO15-H33で、MLST型がST7278でした。mcr-1.5はIncI2プラスミドに局在し、中国と日本で動物由来大腸菌から検出されたmcr-1と関連することを指摘しています。

以上の人からの分離報告は、mcr-1がわが国においても食用動物から食肉を介して人に拡散していることを示唆しています。まだ検出報告数は少なくその実態は不明であることから、One healthに基づく耐性菌モニタリングを構築することにより、その動向を監視する必要性が指摘されています。

 

Tada T, Uechi K, Nakasone I, Shimada K, Nakamatsu M, Kirikae T: Emergence of a colistin-resistant Escherichia coli clinical isolate harboring mcr-1 in Japan, Int J Infect Dis, 63:21-22, 2017. (DOI: http://dx.doi.org/10.1016/j.ijid.2017.07.023)

 

Ishii Y, Aoki K, Endo S, Kiyota H, Aoyagi T, Kaku M, Bonomo R, Tateda K.: Spread of mcr-1.5 in the community: an emerging threat, Int J Antimicb Agents, Publish online: Nov 7, 2017.  http://www.ijaaonline.com/article/S0924-8579(17)30388-6/pdf