ネコが原因と思われるコリネバクテリウム・ウルセランス感染症の死亡例

掲載日:2018.01.16

 今般、ネコが原因と思われるコリネバクテリウム・ウルセランス(Corynebacterium ulcerans)感染症により福岡県の60代の女性が死亡したことが報道されました(2018/01/15 産経新聞)。日常的に野良ネコに餌を与えていたようで、野良ネコからも本菌が分離されました。本感染症は極めて珍しいもので一般の方々のみならず獣医師にも認識が薄いものと考えられます。そこで今回はこの感染症について紹介したいと思います。

 

原因:Corynebacterium ulcerans が原因菌で、ジフテリア菌の近縁であることが知られています。またジフテリア菌の毒力因子である強い細胞毒性を与えるジフテリア毒素を産生することがあります。

疫学:英国において最も症例が多く、1986年から2006年までに無症状保菌者を含む56例から本菌が分離されています。他の欧米諸国でも散発的な報告があります。国内では2001年から今回の症例を含めて25例が公表されています。多くはネコを飼育しており、イヌを飼育している場合も見受けられます。殆どのヒトの症例は抗菌薬で治療ができましたが、残念ながら今回は国内での初めての死亡例になりました。

感染経路:当感染症は、ヒト、イヌ、ネコ、牛のほか、様々な動物において感染事例が確認されており、動物の咽喉頭、肺、皮膚、乳腺などに様々な症状を呈する人獣共通感染症です。海外においては、乳房炎や関節炎に罹患した牛の生乳からの感染が確認されていましたが、最近では本菌に感染したイヌやネコからの感染が国内外で広く確認されるようになっています。
なお、ヒトからヒトへの感染事例は、国内では現在まで報告がなく、国外においても非常にまれといわれています。

臨床症状:基本的にヒトはジフテリアと類似した臨床症状を示します。呼吸器感染の場合には、初期に風邪に似た症状を示し、その後、咽頭痛、咳などとともに、扁桃や咽頭などに偽膜形成や白苔を認めることがあります。重篤な症状の場合には呼吸困難等を示し、死に至ることもあります。また、呼吸器以外(頸部リンパ節腫脹や皮膚病変)の感染例も報告されています。

なお、感染動物の症状も基本的にヒトと同じで、風邪様の症状や皮膚に化膿を起こすことがあります。

診断:ヒトではジフテリアと類似した症状を示すため、ジフテリアとの鑑別が重要となります。専門機関で培養検査や遺伝子(PCR)検査が行われます。

症状を示すイヌやネコを診察した獣医師は検査材料を臨床検査会社に依頼し、「コリネバクテリウム属菌」との結果が出れば、感染症研究所等で同定してくれます。菌株の送付に当たっての書式や送付先は厚生労働省のホームページ「コリネバクテリルム・ウルセランスに関するQ&A」に記載しています。http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou18/corynebacterium_02.html

 

治療と予防:抗菌薬が有効であるとされています。国内においては、ヒトの症例でマクロライド系抗菌薬の使用による回復例が報告されています。ジフテリア・トキソイド(ワクチン)は菌種は異なるものの毒素が同じであるため当感染症に対しても有効であると考えられます。感染した動物に対してもマクロライド薬は有効と考えられます。

感染症法の取扱い:C. ulceransによるヒトのジフテリア様疾患には現在感染症法の適用はありません。

感染した動物への対応:

<獣医師>感染動物は、他の動物に感染が広がる可能性を考慮して隔離して入院させることが推奨されます。感染動物への処置を行う場合は、ほかの動物や処置を行うスタッフへの感染予防を考慮して手袋、マスク等の防護を行って処置を実施してください。動物の治療や世話に用いた手袋等は(可能であれば高圧蒸気滅菌後)感染性廃棄物として廃棄してください。
感染動物については、入院させて、抗菌薬(エリスロマイシンまたはクラリスロマイシン等のマクロライド薬)を投与してください。なお、治療を行った動物については、再検査の結果、本菌が分離されなければ、他の動物や人へ感染はしないと考えられます。

<飼い主>当感染症は、イヌ、ネコ等の動物から人に感染する可能性のある人獣共通感染症です。飼育しているイヌやネコが咳やクシャミ、鼻水などの風邪様症状、皮膚炎、皮膚や粘膜潰瘍などを示しているときは、早めに獣医師の診察を受けるようにしてください。
また、こうした犬や猫に触る場合は、過度な接触を避け、触った後は手洗いなどを励行してください。

 

なお、詳しくは添付のパンフレットを参考にして下さい。