害虫に殺虫剤抵抗性を持たせる共生細菌

掲載日:2017.12.19

人や動物の腸内には善玉菌や悪玉菌などの多くの腸内細菌叢(最近はマイクロビオータmicrobiotaと呼ばれます)が生息しています。これらの細菌は整腸作用を示すとともに最近では宿主の免疫や感染にも関係することが分かってきました。さらにストレスを感じる脳と、消化管の一つである腸の間には、“脳腸相関”といわれる意外な関係も分かってきました。このように我われと共生する細菌である腸内細菌のさまざまな新機能が明らかにされ、新たな研究分野としても今注目されているのです。そこで今回紹介したいのは、害虫が持つ共生細菌が宿主である害虫の殺虫剤抵抗性をも規定しているという話です。

ダイズやササゲなどの豆類栽培の難妨害害虫にホソヘリカメムシがおり、日本のみならずアジアに広域に生息しています。この害虫は、幼虫が環境土壌中に生息するバークホリデリア属菌を取り込んで共生しています。ホソヘリカメムシの駆除に使われる殺虫剤には、有機リン系殺虫剤であるフェニトロチオンがあります。土壌に生息するさまざまな土壌細菌の中に、フェニトロチオンを分解し増殖に必要な炭素源として利用するものがいることが報告されていました。そこで土壌やそこで生息するホソヘリカメムシからバークホリデリア属菌を分離して調べてみると、わずかですがフェニトロチオンを分解する細菌が含まれていました。このフェニトロチオン分解菌と非分解菌をホソヘリカムムシに感染させて、フェニトロチオン感受性を比較したところ、分解菌を感染させた群のフェニトロチオン抵抗性が大幅に増加していることが明らかにされました。このことは害虫が環境土壌中の殺虫剤分解細菌を体内に共生させることにより、自らを死滅させる殺虫剤に対する抵抗性を獲得することを示したことになります。

これまで私たちは宿主のさまざまな性質を規定するのは宿主個体そのものであるとの既成概念で物事を考えてきました。それが本研究により腸内に生息する共生細菌という微細な生き物の性質が反映していたということで、まさに常識を覆す研究内容と考えられます。今回の報告は害虫での出来事であり、哺乳類に直ぐには当てはめられないとは思いますが、生物の進化の過程で獲得した共生細菌(腸内細菌)の無限の機能を感じさせる話です。現在、プロバイオテイクスとして生菌剤が開発され盛んに応用されており、新たな効能を考えるヒントになる話かと思います。

 

Kikuchi Y, Hayatsu M, Hosokawa T, Nagayama A, Tago K, Fukatsu K: Symbiont-mediated insecticide resistance, Proc Natl Acad Sci USA, 109(22):8618-8622, 2012.