カルバペネム耐性腸内細菌科細菌の院内感染事例

掲載日:2017.08.17

カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(Carbapenem-resistant Enterobacteriaceae ;CRE)は、医療上最も重要な耐性菌と言われています。それはカルバペネムを含む多くの広域β-ラクタム系抗菌薬に耐性を示すばかりでなく、フルオロキノロン系やアミノグリコシド系抗菌薬に耐性を示すことが多いと報告されているからです。新規の抗菌薬の開発が遅々として進まない現状から、医療関係者は最強の抗菌薬であるカルバペネムに対する耐性菌の出現を警戒しているのです。その中にあって、最近、世界各国で増加しているのが多剤耐性を示すCREであり、その動向に関心が寄せられています。

今般、各種メデイアでも報道されているように、8月11日に北九州市の中堅病院からCREの院内感染事例が明らかになりました。高齢の入院患者4名からCREが分離され、3名が死亡しています。理由としては院内感染対策が不十分であったと記者会見で院長が述べています。CRE感染症は、2014年9月に感染症法に基づく5類全例把握疾患に指定されています。2015年の1年間の届出状況を見てみると、1,669例が報告され、59例の死亡例が含まれているのです。したがって、日本も稀な細菌感染症とも言えない状況の様に感じられます。

CRE感染症に対して最も有効な抗菌薬であるのが、畜産分野で飼料添加物や医薬品として半世紀の歴史のある硫酸コリスチンであり、最終治療薬 (last resort)とも言われています。食品安全委員会のリスク評価の結果から、飼料添加物である硫酸コリスチンの指定は2018年4月に取り消しになる予定ですが、CRE感染症の動向次第では動物用医薬品としての硫酸コリスチンの今後にも影響することが想定され、獣医療関係者も関心を持つ必要があるものと思います。

一方、カルバペネム系抗菌薬は動物に対する承認はありません。しかし、伴侶動物医療において獣医師の裁量で適応外使用されている実態があります。承認薬でないので用量設定などの基礎データがないため、あくまで経験的な治療ということになります。現時点で伴侶動物の薬剤耐性に関するモニタリング制度がないため、どの程度の量が使用されているのか、また耐性菌の出現状況など皆目見当がつかない状態です。最近、日本で膀胱炎の犬と結膜炎の猫から、医療でも高頻度に検出されるIMP-1型のβ-ラクタマーゼを保有するカルバペネム耐性Acinetobacter radioresistensが世界で初めて分離され注目されています。分離菌の人医療への影響は不明ですが、伴侶動物におけるカルバペネム系抗菌薬の使用は、慎重の上にも慎重にする必要があると思われます。

 

Kimura Y, Miyamoto T, Aoki K, Ishi Y, Harada K, Watarai M, Hataya S:
Analysis of IMP-1 type metallo-β-lactamase-producing Acinetobacter radioresistens isolated from  companion animals, J Infect Chem 23(9):655-657, 2017.